スペシャル
市川染五郎さん特別インタビュー
大役に挑んだ二十歳の記憶と、浮世絵が教えてくれた歌舞伎の歴史
初代歌川豊国《三代目市川八百蔵の武部源蔵と二代目岩井喜代太郎の戸浪》ですが、この役を初めて演じたのは二十歳のときでした。本来なら二十歳でやるような役ではなかったので、お話をいただいたときは本当に驚きました。
当時は父とのダブルキャストで、一日ごとに交代で同じ舞台に立っていました。教わった本人と同じ劇場で、同じお客様の前で演じるわけですから、そのプレッシャーはすごかったですね。でも今後も何度も演じていかなければならない大切な役なので、とても思い入れがあります。
また、音声ガイドで紹介した鳥居清長《三桝徳次郎の夕霧、四代目松本幸四郎の藤屋伊左衛門》、この演目の初演が四代目幸四郎だったということ初めて知りました。我が家にはあまり縁のない作品だと思っていたので、意外なところにルーツがあったんだなと驚きました。
歌舞伎は襲名を重ねながら受け継がれていく芸能です。浮世絵を見ていると、「実はこの人も幸四郎だったんだ」といった発見も多くて、歴史のつながりを感じられるのが面白いですね。
10歳の「金太郎」時代に夢中で模写した国芳の世界
歌川国芳《「坂田怪童丸(さかたくわいどうまる)」》は、僕が10歳くらいの頃に模写したことがあります。当時はまだ松本金太郎という名前でした。
色使いや筋肉の表現がとても印象的で、できるだけ正確に描こうと思いながら夢中で模写していました。
小学校では、運動会のときに校庭へ飾る旗を親が作る行事があったのですが、母がこの絵をフェルトで作ってくれたんです。それを6年間ずっと使っていました。
振り返ると、この作品との最初の出会いはその旗だったのかもしれません。
今見ても「歌舞伎にしたい絵の一つ」ですね。この場面を舞台で表現してみたいと思いますし、浮世絵のさまざまな要素を取り入れた演目があっても面白いんじゃないかなと思います。
「落書き」が好き――祖父から受け継いだ美意識
歌川国芳《「荷宝蔵壁(にたからぐらかべ)のむだ書(がき)」》は昔から大好きなんです。実はこれも真似して描いたことがあります。
もちろん細部まで丁寧に描き込まれた作品も素晴らしいのですが、僕は昔から少し「落書き」っぽい絵に惹かれるところがあって。ピカソも好きなんですが、いわゆる抽象画というより、ササッと描いたような線画が好きなんです。
祖父もピカソの線画が好きで、よく模写していました。その影響もあるのかもしれません。
なんでもない紙を一枚破って、そこにサッと描いたように見える。でも実は、その一本一本の線がすごく考え抜かれている。そういう絵に魅力を感じます。絵でしか表現できない面白さがありますよね。
浮世絵には、そうした表現の魅力だけでなく、当時の歌舞伎を知る手がかりもたくさん残されています。
歌舞伎には、今も上演され続けている演目がある一方で、江戸時代に一度だけ上演され、その後は上演されていない作品もあります。そうした作品も、浮世絵を見ることで「こんな演目があったんだ」と知ることができます。
現代には残っていない作品であっても、浮世絵からヒントを得て、どんな舞台だったのか想像することができますし、そうしたものを今の時代にどう伝えていけるのか考えるのも面白いですね。
『百花繚乱』の世界で、日本人の美意識に出会う
今回の展覧会は、まさに『百花繚乱』というタイトルの通りだと思います。
江戸絵画と一言で言っても、本当にさまざまな作品があります。絵師によってタッチも違えば、色使いも違う。同じ時代に描かれた作品でも、これほど表現が違うのかと驚かされます。
ぜひ会場では、その多様さを感じていただきたいですね。
歌舞伎もよく「歌舞伎」という一つのイメージで捉えられがちですが、本当はもっと幅広くて柔軟なものです。江戸絵画も同じで、「古い作品」として見るだけではもったいないと思います。
そこには繊細さと大胆さが共存していて、日本人の根底にある美意識に通じるものがある。現代を生きる私たちにも共鳴する魅力がたくさんあると思います。
もちろん海外の方にも楽しんでいただきたいですが、まずは日本に暮らす私たち自身が、その魅力を改めて知ることが大切なのではないでしょうか。
音声ガイドとともに、ぜひ会場で一つひとつの作品と向き合いながら、『百花繚乱』の世界を楽しんでいただけたら嬉しいです。
作品画像
初代歌川豊国《三代目市川八百蔵の武部源蔵と二代目岩井喜代太郎の戸浪》
鳥居清長《三桝徳次郎の夕霧、四代目松本幸四郎の藤屋伊左衛門》
歌川国芳《「坂田怪童丸(さかたくわいどうまる)」》
歌川国芳《「荷宝蔵壁(にたからぐらかべ)のむだ書(がき)」》
所蔵先、画像クレジットの記載がないものはすべて、大英博物館の作品である。
© The Trustees of the British Museum
ミュゼカラト コラボレーションパフェ発売決定!
大阪中之島美術館 1階 カフェレストラン ミュゼカラト(Musée KARATO)では、本展のコラボレーションパフェを販売します。会期中にぜひお立ち寄りください。
栗と二種のお茶香る花鳥図パフェ
〜円山応挙の《花鳥図》をイメージして〜
2,200円(税込)
円山応挙の《花鳥図》をモチーフに季節の栗と、抹茶とほうじ茶の2種類のお茶を用い、華やかなパフェに仕立てました。可愛い2羽の鳥と金のお皿が作品の世界観に引き込みます。
販売期間: 2026年10月31日(土)– 2027年1月31日(日)
フェスティバルプラザ 「百花繚乱 咲き誇る、食の饗宴。」開催
フェスティバルプラザでは、本展とのタイアップメニューやおすすめ商品を期間限定でご用意しています。
店舗名:焼肉 炉辺
ランチ:百花繚乱 御膳、ディナー:百花繚乱 プレート
- ランチタイムのみ ご飯、サラダ、スープ、小鉢3種付き
店舗名:芦屋天がゆ
限定献立(鯛のカルパッチョと豪華天ぷら10品)
イベント名:
大阪中之島美術館×フェスティバルプラザ
大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱~海を越えた江戸絵画 タイアップ「百花繚乱 咲き誇る、食の饗宴。」
販売期間: 2026年10月31日(土)– 2027年1月31日(日)
本イベントのパンフレットに掲載されている各店舗のタイアップメニューのご注文やおすすめ商品をご購入いただいたお客様への特典として、展覧会の作品をモチーフにしたオリジナルカレンダーを数量限定・先着順でプレゼント。
オリジナルカレンダー
記念講演会・イベント
大阪会場
①記念講演会「大英博物館の日本美術コレクション・本展のみどころ」
日 時:2026年10月31日(土) 14:00 – 15:30(開場 13:30)登壇者:モリーン・デヴリース氏(大英博物館キュレーター[国際巡回展])
②夜間特別講演会「談山神社の障壁画空間を復元する―150年ぶりの襖絵再会を機に」
日 時:2026年11月27日(金) 17:00 – 18:30(開場 16:30)
登壇者:山下善也(元・京都国立博物館主任研究員)
③特別講演会「大英博物館の浮世絵コレクション」
日 時:2026年11月28日(土) 14:00 – 15:30(開場 13:30)
登壇者:浅野秀剛氏(公益財団法人大和文華館、あべのハルカス美術館館長)
④講演会「世界を魅了する大英博物館の江戸絵画」
日 時:2026年12月26日(土) 14:00 – 15:30(開場 13:30)
登壇者:林野雅人(大阪中之島美術館 学芸課長代理)
①~④いずれも、下記にて実施します。
会 場:大阪中之島美術館 1階ホール
定 員:150名(先着順、事前申込不要)
参加費:無料。ただし本展の観覧券(利用後の半券可)が必要
ナッカキッズデー
小さなお子さま連れのご家族や小学生・中学生が、周囲に気兼ねなく展覧会を楽しめる特別開館日です。お子さまとご一緒の方も、ゆったりと作品をご鑑賞いただけます(大人の方のみでも入場可能です)。
日 時:2027年1月4日(月) 10:00 – 17:00(16:30最終入場)
参加費:無料。ただし小学生以上の方は当日の観覧券が必要 *事前申込不要
NHK番組情報のご紹介
最新情報は決まり次第お知らせいたします。
彬子女王殿下からのおことば
7月25日の展覧会開幕に先立つ開会式にて、大英博物館とご縁の深い彬子女王殿下よりおことばをいただきました。
本日ここに、東京都美術館開館100 周年記念「大英博物館日本美術コレクション百花繚乱〜海を越えた江⼾絵画」が開会しますことを大変うれしく思います。
私は英国留学時代、大英博物館の日本セクションでボランティアとして勤務させていただきました。日本ギャラリーに併設したスタディルームで、絵画作品を掛け替えながら指導教授であったティム・クラーク先生と議論を重ねた毎週のチュートリアルや、版画・素描部で分厚い19 世紀の登録簿を朝から晩までめくり、日本関係の作品を抜き出した日々、陶磁器の収蔵庫で宝探しをするように作品調査を続けた日々は、思い返せば、おそらく二度と経験することはできないであろう、本当に宝物のような時間でありました。
本展覧会には、私がその頃に接しておりました多くの作品が日本に里帰りをいたします。中でも桜井香雲筆の《法隆寺金堂壁画 九号壁 模本》は、私が調査中に発見した作品で、当時はまだ表具されていないまくりの状態でした。この作品を表具して、大英博物館で展示していただくのが私の夢でありましたが、2019 年に開催された展覧会”Nara: sacred images from early Japan”に表具をして展示されることとなり、「アキコがいなかったらこの展覧会は実現していなかったから」と、ティムにキーノートスピーカーとしてシンポジウムに招待してもらったときは、涙をこらえるのが必死でありました。その作品が、約150 年の時を経て日本に初めての里帰りを果たすことになったとは感無量のものがございます。
私は日本美術の研究者ではありますが、作品そのものよりも作品にかかわる人に関心があります。絵師はなぜこの画題を描いたのか、注文主はいたのか、これだけの補筆をしながらもこの作品を大切に手元に残してきた理由はなんなのか、どのような人の手を渡って今この場所にあるのだろうか…すべての作品はものがたりを持っています。よく「明治時代には海外に日本美術が多く流出した」などと言われることがありますが、ほとんどの作品は日本を愛した外国人によって正規の値段で購入され、持ち帰られたものであり、日本に残っていたら顧みられずに破棄されたり、震災や戦争などの影響で失われたりしていたかもしれません。海外の美術館・博物館のガラスケースで日本の作品が展示されているのを見ると、私はいつも誇らしい気持ちになります。本展覧会では、作品を蒐集したコレクターや流転のものがたりなどにも焦点が当たっていることを大変ありがたく思っております。本展覧会を通して、多くの皆様が日本と英国の交流の歴史、日本美術を愛した多くの英国人たちの思いにも思いをはせてくださることを願いつつ、私よりのご挨拶といたします。